「そろそろ電話を入れ替えるから、総務のほうで進めておいて」
上司からそう言われて、何から手をつけたものかと固まってしまった。
オフィスの裏方を担当していると、こういう場面が数年に一度は訪れます。
はじめまして、柴田亮介と申します。
中堅商社の総務部に15年ほど在籍し、その間にオフィス移転を4回、拠点の新規開設を7件担当してきました。
そのたびに電話とLANと複合機の手配で頭を抱えてきた人間です。
現在は独立して、中小企業のオフィス開設や移転まわりの実務をお手伝いしています。
ビジネスホンの入れ替えが難しいのは、機種の知識が足りないからではありません。
「どの会社に頼めばいいのか」を判断する軸を、誰も教えてくれないからです。
機種はカタログを読めば比べられます。
けれど業者は、カタログのように横並びで比較できる資料が存在しません。
この記事では、私が実務で使っている業者選びの基準を5つに整理してお伝えします。
相見積もりを取る前に目を通していただければ、何を聞き、何を比べればいいのかがはっきりするはずです。
目次
ビジネスホンの入れ替えは、機種選びより業者選びで決まります
最初に、身も蓋もない話をひとつ。
ビジネスホンは、どの会社から買っても同じ機種なら同じ製品が届きます。
沖電気工業の機械を選べば沖電気工業の機械が来ますし、NECを選べばNECが来ます。
では何が変わるのかというと、そこから先のすべてです。
現地調査の丁寧さ、配線の取り回し、工事日の段取り、設定の作り込み、そして納品後に電話が鳴らなくなったときの反応速度。
同じ製品でも、扱う会社によって使い勝手はまったく別物になります。
入れ替えのきっかけは、だいたい3つに分かれます
総務の手元に「入れ替え」の話が降りてくるパターンは、経験上ほぼこの3つです。
- リース契約の満了が近づいた
- オフィスの移転や増床が決まった
- 故障が増えた、またはメーカーの保守期間が終わった
このうち、いちばん厄介なのが3つ目です。
理由は単純で、突発的に起きるうえに、業者を比較する時間がほとんど残っていないからです。
逆に言えば、1つ目と2つ目は準備期間を確保できます。
リース満了なら半年前、移転なら着工の3か月前には動き出せると、選択肢が一気に増えます。
「電話が使えない時間」の重さを見落とさないこと
私が過去にいちばん肝を冷やしたのは、移転当日に代表番号が着信しなかった一件でした。
原因は工事の失敗ではなく、回線の切替日と工事日の連携が1日ずれていたことでした。
機械は問題なく動いていたのに、外からの電話だけが繋がらない。
半日で復旧しましたが、その半日の間に何件の問い合わせを取り逃したのかは、いまも分かりません。
ビジネスホンの入れ替えは、機械の交換作業ではなく、会社の連絡手段を止めずに載せ替える作業です。
この前提に立つと、業者に確認すべきことが自然に見えてきます。
基準1:電気通信工事を任せられる裏付けがあるか
まず確認したいのが、その会社が工事を請け負う裏付けを持っているかどうかです。
ここは感覚論ではなく、公的な制度で確かめられます。
建設業許可(電気通信工事業)を見る
ビジネスホンやLANの配線工事は、建設業法上の「電気通信工事業」にあたります。
国土交通省の建設業の許可とはによると、建設工事は土木一式工事と建築一式工事に加えて27の専門工事、合計29種類に分類されており、工事の完成を請け負う営業には建設業法第3条に基づく許可が必要とされています。
ただし、請負代金が500万円未満の工事(建築一式工事は1,500万円未満など)は「軽微な建設工事」として、許可がなくても請け負えます。
ここが重要な点です。
小規模なビジネスホン工事は、許可を持たない会社でも請け負えてしまいます。
つまり許可の有無は「法律違反かどうか」ではなく、「一定規模以上の工事を継続的にやってきた会社かどうか」を映す鏡として見るべきものです。
許可番号は、次のような形式で表記されます。
| 表記例 | 読み方 |
|---|---|
| 東京都知事許可 | 営業所が1つの都道府県内にある(複数県にまたがる場合は大臣許可) |
| 般-22 | 一般建設業/許可を受けた年度(この例では22年度) |
| 第◯◯◯◯◯号 | 事業者ごとの許可番号 |
なお一般建設業と特定建設業の違いは、下請に出す金額の規模によるものです。
5,000万円以上(建築工事業は8,000万円以上)の下請契約を結ぶ場合に特定建設業が必要になるため、オフィスの電話工事では一般建設業で十分にカバーできる範囲です。
工事担任者がいるかどうか
もうひとつの裏付けが、工事担任者という国家資格です。
一般財団法人日本データ通信協会の電気通信国家試験センターでは、この資格について「電気通信の工事担任者は、電気通信回線に端末設備、又は自営電気通信設備の接続工事を行い、又は監督する役割を担っています」と説明されています。
要するに、通信回線に電話機やルーターを接続する工事を行う、あるいは監督するための資格です。
ビジネスホンの設置はまさにこの領域にあたります。
見積もりの段階で「工事は有資格者の方が担当されますか」と一言確認しておくだけで、相手の体制が見えてきます。
基準2:取り扱えるメーカーの幅があるか
次の基準は、提案の幅です。
ビジネスホンを扱う会社には、特定メーカーの製品だけを扱うところと、複数メーカーを横断して扱うところがあります。
1社専売が悪いわけではありません。
そのメーカーの機種に精通しているという強みは確実にあります。
ただ、こちらの要望に対して選択肢が1つしか出てこない場合、それが本当に最適解なのかを検証する手段がなくなります。
主要な国内メーカーには、それぞれ性格の違いがあります。
| メーカー | 特徴として挙げられることが多い点 |
|---|---|
| 沖電気工業 | 通話録音の容量が大きい機種があり、ホテルなど業種特化のソリューションも用意されている |
| NEC | クラウドサービスとの連携メニューが整理されており、モバイル内線の構成を組みやすい |
| 岩崎通信機 | ハンズフリー対応のコードレス機など、現場での取り回しに配慮した端末が揃っている |
たとえば通話録音を重視するなら、録音可能時間はメーカーや機種によって数十時間から二千時間近くまで幅があります。
コールセンター的な使い方をするのか、トラブル対応の記録として保険的に残すのかで、必要な容量はまったく変わります。
複数メーカーを扱う会社であれば、この「使い方から逆算した提案」が出てきやすくなります。
社員数が増えるとPBXの領域に入ります
もうひとつ、規模による分岐も押さえておきましょう。
一般的に、ビジネスホン(ボタン電話設備)は数十人から数百人規模のオフィス向けです。
これが500人を超え、1,000人、2,000人という規模になると、PBX(構内交換機)の領域に入ります。
自社が将来どちらに向かうのかによって、選ぶべき業者も変わります。
拠点を増やす計画があるなら、PBXまで扱える会社を選んでおくと、次の更新時に一から業者を探し直さずに済みます。
基準3:電話以外の設備までまとめて見られるか
3つ目の基準は、対応範囲の広さです。
オフィスの通信インフラは、電話だけで完結しません。
- LAN配線と無線アクセスポイント
- 光ケーブルの引き込み
- 複合機・プリンター
- UTMなどのセキュリティ機器
- 監視カメラ、放送設備
これらは物理的に同じ天井裏、同じ配線ルート、同じ電源を共有しています。
にもかかわらず、電話はA社、LANはB社、複合機はC社と窓口が分かれていると、何かトラブルが起きたときに調査が止まります。
電話が繋がらない。
けれど電話業者は「機械は正常です」と言い、ネットワーク業者は「回線は生きています」と言う。
この押し付け合いに巻き込まれた経験のある総務担当者は、決して少なくないはずです。
一社で複数領域を見てもらえると、少なくとも「原因の切り分けをどこに頼むか」で悩む必要がなくなります。
スマホの内線化を考えているなら特に重要です
近年は、社員のスマートフォンを内線として使う構成の相談が増えました。
この仕組みは、電話設備とネットワークの両方が正しく設計されていないと機能しません。
音声が途切れる、内線が繋がらないといった不具合の多くは、電話機側ではなくネットワーク側に原因があります。
電話とネットワークを分けて発注すると、この手の問題は本当に解決しづらくなります。
基準4:工事が終わったあとの体制が用意されているか
4つ目は、納品後の話です。
ビジネスホンは、一度入れれば5年から10年は使い続ける設備です。
その間、社員の増減、レイアウト変更、部署の統廃合といった理由で、必ず設定変更が発生します。
確認しておきたいのは次のような点です。
- 保守契約の有無と、その範囲
- 電話が不通になったときの駆けつけ体制
- 増設用の端末や部材を確保できるか
- 担当者が変わったときの引き継ぎ
特に見落とされがちなのが3つ目です。
メーカーの生産が終了した機種は、新品の増設機が手に入らなくなります。
そのとき、中古機を扱えるかどうかで打ち手が変わります。
中古を扱う会社は「古物商許可」を持っています
中古のビジネスホンを売買するには、古物営業法に基づく古物商許可(都道府県公安委員会の許可)が必要です。
会社概要のページに古物商許可の番号が記載されている会社は、中古機の流通ルートを持っていると読み取れます。
これは意外と実務的な意味を持ちます。
「あと3台だけ増やしたい」という要望に対して、新品の一括入れ替えではなく、中古機の追加という現実的な選択肢を出せるからです。
コストを抑えたい会社にとっては、この差はそのまま予算の差になります。
基準5:提案から施工までの流れが公開されているか
最後の基準は、プロセスの透明性です。
信頼できる会社ほど、問い合わせから工事完了、その後のフォローまでの流れを事前に示してくれます。
一般的には、次のようなステップを踏みます。
- ヒアリング(現在の課題、社員数、必要な機能の確認)
- 現地調査(配線ルート、電源、既存設備の状態確認)
- 提案・見積もり
- 契約、工事日程の調整
- 工事、設定、操作説明
- 引き渡し後のフォロー
このなかで、私がいちばん重視しているのが現地調査です。
現地を見ずに見積もりを出してくる会社は、その時点で候補から外して構いません。
配線の状況は建物ごとにまったく違いますし、見ないまま出した金額は、工事当日に必ず追加費用として跳ね返ってきます。
「見積もりの前に一度現地を見ていただけますか」
この一言に対する反応で、相手の姿勢はかなりの精度で分かります。
5つの基準で、実際に会社情報を読んでみる
ここまでの5つの基準を、実際の会社情報に当てはめてみましょう。
公式サイトの会社概要ページを開けば、確認できる項目は意外と多くあります。
例として、東京都港区芝に拠点を置く情報通信設備の会社を見てみます。
株式会社ティ・ディ・エス(T.D.S)は、情報通信機器の販売・設計・施工・保守を手がける会社です。
公表されている情報を、先ほどの基準に沿って整理すると次のようになります。
| 基準 | 公表情報から読み取れること |
|---|---|
| 基準1:工事の裏付け | 一般建設業の電気通信工事業許可(東京都知事許可 般-22第21882号)を保有 |
| 基準2:メーカーの幅 | ビジネスホンは沖電気工業・NEC・岩崎通信機、PBXは沖電気工業・三菱電機を取り扱い |
| 基準3:対応範囲 | 電話設備に加え、LAN・無線・光配線、複合機、UTM、監視カメラ、放送設備、電気工事まで対応 |
| 基準4:納品後の体制 | アフターサービスを明示。古物商許可(東京都公安委員会 第301042217847号)を保有し中古機も取り扱い |
| 基準5:プロセス | 提案からアフターフォローまでの流れをサイト上で公開 |
このように並べてみると、5つの基準がそのまま「公式サイトで何を確認すればいいか」のチェックリストとして機能することが分かります。
同社は情報通信設備協会関東地方本部や情報通信事業協同組合、東京商工会議所の会員でもあり、業界団体との接点を持っていることも公表されています。
対応できる設備の種類や取扱メーカーの詳細は、株式会社T.D.Sが公開している商品・サービスの案内ページで確認できます。
自社が抱えている課題と照らし合わせながら読むと、必要な項目が見えてくるはずです。
もちろん、これは一例にすぎません。
大切なのは、どの会社を検討するときも同じ物差しを当てて比べることです。
相見積もりを取るときのチェックリスト
最後に、実際に複数社へ声をかけるときの確認項目をまとめておきます。
そのまま質問票として使っていただいて構いません。
| 確認項目 | 質問の例 |
|---|---|
| 工事体制 | 工事は自社の有資格者が担当されますか。それとも協力会社ですか |
| 見積もりの内訳 | 機器代、工事費、設定費、廃棄費用はそれぞれいくらですか |
| 既存設備の撤去 | 今使っている機器の撤去と処分は費用に含まれますか |
| 工事日程 | 業務時間外や休日の工事は可能ですか。追加費用は発生しますか |
| 切替のリスク | 工事中に電話が不通になる時間はどれくらいですか |
| 保守 | 保守契約の年額と、対応時間帯、駆けつけの目安時間を教えてください |
| 増設 | 3年後に5台増やしたい場合、どのような方法がありますか |
| 支払い方法 | 一括購入とリース、それぞれの総額を出してもらえますか |
この表を埋めていくと、金額だけでは見えなかった差が浮かび上がってきます。
特に「工事中に電話が不通になる時間」への回答は、その会社の経験値がはっきり出る質問です。
即答できる会社は、同じ状況を何度も経験しています。
回線の切替を伴う場合は、時期にも注意を
なお、古い設備を長く使ってきた会社の場合、電話回線そのものの切替が絡むことがあります。
NTT東日本・西日本によれば、INSネットの「ディジタル通信モード」は2024年1月から地域ごとに段階的にサービスを終了しています(通話モードは継続して利用可能です)。
詳細は2024年以降のINSネットについてで公開されています。
FAXや受発注端末など、データ通信の機能を使っている設備がある場合は、電話機の入れ替えと合わせて確認しておくと安心です。
まとめ
ビジネスホンの入れ替えで失敗しないための5つの基準を、あらためて整理します。
- 基準1:建設業許可や工事担任者など、工事を任せられる裏付けがあるか
- 基準2:複数メーカーを扱い、使い方から逆算した提案ができるか
- 基準3:LANや複合機、セキュリティ機器まで一社で見られるか
- 基準4:保守、駆けつけ、増設対応など納品後の体制が用意されているか
- 基準5:現地調査を含む提案から施工までの流れが公開されているか
この5つは、どれも見積書の金額欄には表れません。
けれど、導入後の5年間を左右するのは、まさにこの部分です。
総務の仕事は、うまくいって当たり前、何か起きれば真っ先に問い合わせが来る立場です。
だからこそ、選ぶ段階でできる限り手を尽くしておく価値があります。
まずは公式サイトの会社概要ページを開いて、許可番号と取扱メーカーを確認するところから始めてみてください。
それだけでも、候補はかなり絞り込めるはずです。
